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元彼と猫と青春時代【泣けるHな体験談】

そのアパートに引っ越して間もないころ、
夕方になると、外から猫の声が聞こえてくることに気付いた。
 
「にゃ~ん」って感じの可愛い声じゃなく、

「にゃあぎにゃあ!」って感じで、子猫の激しい鳴き声か、
発情した猫の声?それとも猫同士の喧嘩している声?って
感じで耳障りな鳴き声。

ほぼ毎日聞こえてくるけど、
少なくとも十匹単位の数に聞こえる割には、
近所で猫をみかけたことないし、不思議に思ってた。
 
住宅地で、車の通りも少ないから、
余計に猫の鳴き声が際立った。

そのころ夜勤もある仕事してたから、
昼間寝てるときは正直少し迷惑だった。

彼氏が部屋に遊びにきたときに聞いてみたら、
猫の発情期なんじゃないの、と言ってた。
 
「ま、まあ人間は年中発情してるけどね」
 
と、年下で奥手でおとなしい彼氏が、
私にくっつこうとしてくる。

彼なりに精一杯遠まわしに、
アプローチしてきてるのがわかったけど、
あまりえっちが好きじゃない私は、
気付いてないふりをしてやり過ごした。

猫の発情期がいつまで続くのか知らないけど、
夕方家にいるときはほぼ必ず聞こえるし、
姿を見ないのに声だけうるさいのが不思議で、
ある日彼氏と一緒に猫を探してみることにした。
 
猫の正体はすぐわかった。

アパートの近く、生活道路の向こう側は金網があって、
さらにその向こうは高校の体育館?になってる。

その中から聞こえてくるのは猫の鳴き声じゃなくて、
女子剣道部員の“気合い”だった。
 
その高校は女子剣道部がそこそこ強いとこらしくて、
部員もたくさんいた。

窓の向こう、細い声を一生懸命張り上げて、
女の子たちが竹刀を振り回してる。
 
「にゃあ!」

「にゃあにゃあ!」

「にゃあ!みぇーん!めん!」
 
うるさい。

でも、正体を知ってしまうと、
もう猫の声には聞こえなくなってくるから不思議だ。

なーんだ、そうだったのか、なるほど。

と思うと同時に、…ということは、猫の発情期と違って、
これがいつまでも続くのかあ、と思ったら、ちょっとうんざりした。

ふと、サッカー部か陸上部あたりだと思う、
短パンの男の子と、
剣道着の女の子が木陰で寄り添うように立っているのを見つけた。

私と彼氏が、金網越しに見ているのに気付くと、
すぐに走って行ってしまったけど。

走り出す瞬間、つないでいた手を振りほどいて、
胸の前できゅっと握って恥ずかしそうにしてる女の子がかわいかった。
 
「いいなあ…」
 
と彼氏がつぶやいた。

私があまりイチャイチャするのが好きじゃないので、
彼が少々不満に思っていることは知ってた。

何だか少し、申し訳なく思った。
 
何年か前、高校生のころ、私も運動部の男子に憧れてる時期があった。

思いは実らなかったけど、
あの頃の青春?を思い出して、急にドキドキしてきた。
 
外で手をつないだことは一度もないのに、
どちらからともなく手が触れ合って、
彼がきゅっと握ってくれて、
アパートまで何も言わずゆっくり歩いて帰った。
 
彼は奥手で、私もドライな方なので、
どっちかがえっちを誘うってことはなくて、
2人で寝る時に何となく始まるって流れが多かった。
 
でもその日は何となく、
めずらしく私から積極的になってみた。

自分が発情してるのがわかった。

発情してる猫なんていなかったのに、
いないはずの猫に触発されてえっちな気分になってる気がしておかしくて、
恥ずかしかったけど、その時はガマンしたくなかった。

彼もわかってくれてて、って言うか彼も発情してて、
いっぱいキスしながら、脱がすのを手伝ってくれた。

脱ぐ前から濡れるってことはあまりないけど、
そのときはすごく濡れてた。

窓の外から、まだ、にゃあにゃあと聞こえてくる中、
彼のが入ってきた。思わず「ふにゃあ?」と声が出てしまった。

いつもと違う雰囲気の中、彼が調子にのって初めて、
生で入れてきたのがわかったから。

普段、えっちのとき私はあまり声を出さない。
 
びっくりしたのと、あ、ゴムありとは感触違うんだ、
気持ちいいかもって感じで、声が出てしまった。

思わず出たその声が、猫みたいだなって自分で思ったらおかしくなって、
笑いをこらえようとしたら変顔になったみたいで、
彼もくすっと笑って、「にゃあ」と言った。
 
「もっとにゃあにゃあ言ってよ」
 
腰を動かしながら彼が、そんなこと言ってくる。

声を出すこと自体が私は恥ずかしいのに、
でもいつもより興奮してて、
頭がぼうっとして何が何だかわからなくなってきた。
 
「にゃ、にゃあ?」
 
小さな声を出しただけなのに、
体が熱くなって、見なくても体が真っ赤になってるのがわかった。

興奮っていうより、もう、とにかく恥ずかしくて。

淡白なえっちしかしたことないから、
にゃあ、の一言だけで何か変態になってしまった気がして。
 
でもやっぱり興奮のスイッチにもなったみたいで、
いつもよりたくさん濡れてるのがわかった。

出し入れする音が、いつもと比べ物にならないくらい、
水っぽいって言うか、ちゃぷちゃぷしてるのが聞いててわかる。
 
もう頭の中が真っ白になってきて、
外から聞こえる剣道部の声にも乗せられて、
私もにゃあにゃあと喘ぎまくった。
 
終わったあとがとにかくもう恥ずかしくて、
半分キレかかって彼にさっさと帰って!と言って帰してしまった。

自分はツンデレかも知れないと思った。

でも彼とは、これからはもう少し素直で心地いい関係になれるのかなって嬉しくもなった。


それから、えっちしたい時の合図はお互いに、「にゃあ」の一言だった。

なるべく剣道部の練習の時間に合わせて、
気合いの声に喘ぎ声を紛れ込ませた。

ガマンしないでにゃあにゃあ声を出すようにしたら、
ちゃんといけるようになった。

恥ずかしさが快感につながるって感覚も、
変態なのかな、と気にしつつ、受け入れるようになった。

数年後、彼が亡くなってからアパートでこっそり猫を飼うようになって、
彼の名前をつけてかわいがっていたけど、
飼ってるのがばれたから実家に預けた。

そしたらしばらくして車にひかれて死んでしまった。
 
そして、久しぶりに私を好きって言ってくれる男性があらわれて、
付き合うことになった。

前の彼とタイプがよく似ていて、
しょっちゅう思い出してしまう。

猫のことも。

それで目の前で泣いてしまうこともあるけど、
まだ理由は秘密にしている。
 
そしてまだ「にゃあ」も封印している。
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