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俺とホームレス少女のはなちゃんの泣ける思い出

俺がホームレスの幼い少女に告白された話を
思い出したから書こうと思う。

俺は普通の会社員でアパート住みで
今は独身で、家族はいない。

ホームレスの少女ははなちゃんと呼んでた。
髪の毛はボサボサだけど長い、
年齢は小学生ぐらいだと思う。

去年の冬、俺は苛々した気持ちで会社から帰宅した。

凄く寒い、雪の降る日で、
早く家に入ろうとアパートの中に入った。

でも、俺は部屋に入れなかった。

自分の家の扉の前に、一人の幼い少女がいたんだ。

一目でホームレスだと分かった。

もう見た目が家出少女ですらない。
正真正銘の子供のホームレス。

髪の毛はボサボサで、
こんな寒いのに薄いジャケットを羽織っていた。

ジャケットも泥がついてて穴とか開いてた。

チラチラ見える肌は汚なくて、
その子からは異様な臭いがしていた。

その子は俺の家の扉近くにある、
隣の家の換気扇の生暖かい空気を求めてそこに居座っていた。

俺の不快感は募るばかりだった。

(早く退けよ、部屋入れねぇじゃん)

女の子を避けて部屋に入れば良かったのに、
俺は、そのホームレス少女に近づきたくもなかった。

酷いと思うかもしれない。

でも、皆にも経験あると思うんだ。

駅にいるホームレスを避けるだろう。

電車にホームレスが座ってたら、
両側の座席は空いたままだろう。

俺は、ホームレスのこの小さい女の子を、
害虫かであるかのように見ていた。

女の子は俺の視線に気付くと、
ニカニカと笑って換気扇の前からどいた。

俺は部屋に急いで入って鍵を慌てて掛けた。

不快だった。
玄関前が臭くなるんじゃないかと心配していた。

そのホームレスは次の日も換気扇の前にいた。

次の日も次の日もいた。

俺は段々怒りが湧いてきて、
怒鳴りつけてやろうと意気込んで帰宅した。

ホームレスの幼い女の子はいつも通りいた。

換気扇の前で座り込んで、俺の姿を見ると、
俺が部屋に入れるようにズリズリ身体を移動させた。

「お帰りなさい」

女の子は、満面の笑みで俺に笑いかけると、
子ども特有の、高くて柔らかい声で俺にそう言った

俺は、女の子の声を初めて聞いた瞬間、
この子を初めて人間として見れた

自分は最低だと思った。

息子がいた父親とは到底思えないような人間だった

女の子はそれからも換気扇の前にいた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

俺は返事を返すようになり、
女の子とも段々話すようになった。

女の子の名前は「はなちゃん」というらしい

はなちゃんは自分の事を話す時、
「はなちゃんはね」と切り出す。

はなちゃんの癖はよく右目を擦る事で、
泣いてるのかと勘違いする事もしばしばあった

はなちゃんは垢でくすんでるけど、
とても素敵な笑顔をする子だった。

でも、笑顔の度に見える欠けた歯や虫歯だらけの口を見ると、
居たたまれなくなって、泣きそうになった

俺はある時、家からお湯で絞ったタオルを持ってきて、
はなちゃんの顔を拭いてあげた

はなちゃんは頬が赤くなりやすい、
綺麗な色の肌をしていた

指も綺麗に拭いて、首も拭かせた

はなちゃんはお風呂に入れるのは
1ヶ月に一回と言っていた。

はなちゃんの言うお風呂は、
みんなが想像してるお風呂じゃない。

お風呂とは名ばかりで、
水で濡れた身体を雑巾で拭うだけ

雨の日か、
水道を見つけた時に水を使うらしい

「公園の水道を使えばいいじゃない」

俺がそう言うと、
はなちゃんはとんでもないとでも言うように目を丸くして笑った。

「公園には男の子達がいっぱいいるもん」

はなちゃんはホームレスの前に、
女の子だった

またも俺は、
自分は酷い奴だなと自己嫌悪に陥った。

はなちゃんはお父さんもお母さんもいるらしい。

お母さんは帰ってこないけど、
アメリカへ仕事に行っていて、
お父さんははなちゃんと一緒に暮らしてるらしい。

お母さんは、アメリカへ仕事

嘘だな。

違う男が出来たんだろう。

俺は確信していた

はなちゃんの話には、お父さんの他に、
恐らくホームレス仲間であろう三好さんという
オジサンの名前が出てくる。

三好さんは、パチンコ玉をくれるそうで、
はなちゃんはそれを大事にいつも持っていた

俺に、自慢気に

「三好さんは魔法使いでね、
はなちゃんに魔法の石をくれるの」

と言って、5個のパチンコ玉を、
そっと手の平を開いてこっそり見せてくれた。

魔法ね。

三好さんが魔法に成功する事はないと思うけどね。

俺は大人になった自分の汚さとかを見せ付けられてる気がした。

はなちゃんは、俺のとこに来て、
俺から温かいおしぼりで身体を拭いてもらうってのが日課になっていた。

俺も段々楽しくなっていて、
自分の娘のような倒錯さえ感じていた。

俺が帰るのは夜の20時くらいだったけど、
はなちゃんはいつも待っていた

大家さんはこの事に気付いていて、
ある日俺に文句を言いに来た

その日は休みの日で、俺は部屋にいたんだが、
何回も呼び鈴を押されて仕方なく出ていくと、
大家さんが仁王立ちでガンを飛ばしていた。

「あのですね、猫に餌やり禁止って入居の時に言ったよね」

「やってないですよ」

「猫ならまだ許せるけど、
ホームレスはシャレになんないんだけど」

大家のねちっこい声と、あんまりな台詞に、
俺は最初の自分が重なった

俺は、過去の自分を見ているようで、
大家の気持ちは痛い程よくわかった

でも、俺は、過去の自分が、
はなちゃんに言った数々の失言に後悔と自己嫌悪を繰り返していたので、
まるで自分を叱るように、
大家に向かってなるべく静かにキレていた。

「ホームレスでも、人間ですよ」

「あの子は猫以下なんですか」

「意志もあるし、感情もあるんですよ」

「あの子が猫以下なら、貴方はゴミ以下です」

かなり言ってしまった後に俺は焦った

相手が大家だと気付いたんだ。

自分こそホームレスになるんじゃないか、
そしたら暮らし方をはなちゃんに教わるか
なんて思ってた。

でも、大家は気まずそうに頭を掻くと、小さく

「悪かったよ」

と呟いて、俺を憐れむような目で見上げてきた。

「でも、あの子は、君の子どもじゃないよ。
勘違いしちゃあ、駄目だからね。
これは、君の為に言ってるんだよ。」

大家は俺を見て泣きそうな顔をしていた。

大家は、俺の子どもが死んだ事も、
嫁が死んだ事も知ってる。

俺はこの狭いアパートで、
嫁と二人で暮らしてたからだ。

はなちゃんはその日もきた。

俺は、大家の言葉を覚えていたけれど、
それでもやっぱりはなちゃんが可愛かった。

「はなちゃん、目を擦るの止めたほうがいいよ。」

その日は特に、
はなちゃんの目擦りが酷かった。

花粉症にはならない季節。

でも眼病とか不安な俺からしたら
はなちゃんの目擦りはよくない物だった。

流石に俺も、はなちゃんを病院に連れていく事はできない。

「なんかね、目が痛いの」

右目の瞼が腫れぼったくなっていた。

擦ってたせいだと思ったが、
多分それはものもらいだ。

「はなちゃん、ものもらいだ。
目にゴミ入っちゃったんだろ。」

「ものもらい?」

はなちゃんはものもらいを知らないようで、
自分の目を手で覆うと、俺の目にその手を被せた。

「もの、あげる」

「いらないよ」

触られても平気だった自分に感動して、
はなちゃんの純粋なボケに笑って、その日は笑って過ごした。

でも、はなちゃんは次の日、
俺が帰宅した時間にいなかった。

あれ、と思ってたら、
端っこの家のドアが開いて、大家が出てきた。

大家の後から、はなちゃんが元気よく飛び出してきた。

俺はわけがわからなかったけど、
大家の笑顔を見て、合点がいった。

「はなちゃんたら、18時からいるんだよ。
寒いし、ちょっとだけね。」

大家は禿げてるし背は低いし
奥さんには逃げられてるけど、優しい人だった。

はなちゃんは煎餅を二枚持っていた。

大家に貰ったらしい。

大家は自分で言った事を忘れたのだろうか。

俺よりはなちゃんを溺愛していた。

「はなちゃん、目が腫れてるね。」

「そうなんですよね。
でも俺もよくものもらいになるんですよねー」

はなちゃんは、
煎餅を食べながらなんだかニヤニヤしていた。

今日のはなちゃんはなんだか変だった。

「はなちゃん、何かいい事あった?」

俺が聞くと、はなちゃんは

「んふぅ~」

とニヤニヤしながら何も言わないで、煎餅をバリバリ食べてた。

それからはなちゃんはアパートに来なくなった。

大家の家にも来ていなかった。

はなちゃんも飽きたのかな。

そんな風に思いながらも、帰宅する度に期待して、
物陰から「わっ」と顔を出したりしてみたけど、
誰もいなくて一人虚しくなったり、
たまに大家がいて、現場を見られてニヤニヤされたり。

1週間後には流石に来るだろうと思って、
小さいケーキをヨーカドーで買ってきたり、
でもまあ、やっぱり居ないから一人で食べたり。

この頃俺は、2キロ太った。

大家と会ってこの事を話したら、笑いながら

「どこも一緒だね」

と、照れくさそうに言っていた。

また暫くして、はなちゃんが現れた。

俺は嬉しくて、駆け寄って抱き締める勢いだったけど、
抑えて、駆け寄って頭を撫でた。

「はなちゃんどうしたの」

はなちゃんの顔は、
大変な事になってた。

ずっと目を擦って、擦り方が異様になっていた。

瞼は真っ赤に腫れてて、
涙袋まで赤くなってた。

目の擦り方も、瞼の裏を抉るような、
見てて痛そうな擦り方だ

「はなちゃん、目、見せて」

「いやだ」

はなちゃんは目から手を離そうとしない。

はなちゃんは泣いてた。

無理矢理手をどけたら、
はなちゃんの目はおかしくなっていた。

左目に比べて、若干濁って、
白目の部分が真っ赤になってた

はなちゃんは大声で泣き始めた。
大声に気付いて、大家が出てきた。

大家ははなちゃんの顔を見て、泣いた。

大家の家に行き、
はなちゃんは目薬をさしてもらった。

大家さんは子どもの扱いが上手で、
目薬を嫌がるはなちゃんに

「はなちゃん、実は私ね、魔法使いやってたの
。これはね、魔法の薬よ」

※大家はオカマっぽい口調ですが男です。

はなちゃんはおとなしく目薬をさしてもらっていた。

俺は、はなちゃんの父親に、激しく怒りを覚えた。

何故、こんなになるまで放って置いたんだ。

自分の娘なんだから可愛いはずだろう。

なんで病院に行かせないんだ。
病院に連れていくのはお前しかいないだろう。

せめて、目薬くらい買ってやれよ。ふざけるな。

苛々している俺に、
はなちゃんはニヤニヤしながら飛び付いてきた。

「はなちゃん治るって」

「よかったな」

「んふ~」

ニヤニヤしてるはなちゃんに、
大家がマシュマロを持ってきた。

「はなちゃんはきっと美人さんになるよ~いい顔してるものね」

「そうかしら!ふふ!」

「○○(俺)くんが好きなんだもんね~早く治さなきゃね~」

「ダメだってばぁ!なんで言っちゃうの!んふぅ~」

俺は、そういう事かと、自意識過剰にも納得した。

はなちゃんが可愛いかった。

「はなちゃんが治ったら、
○○は好きになってくれる?」

「治ってなくても、はなちゃんが大好きだよ。
でも早く治せよ?」

「うん」

大家ははなちゃんに、目薬をあげて、
お父さんにでも毎日さしてもらいなさい、
と言って、はなちゃんを帰した。

はなちゃんは

「またね」

と、投げキッスしてた。

どこで覚えたんだ!と笑いながら手を振りかえす。

またはなちゃんは、来なくなった。

それからはなちゃんは、
全然、姿を見せなくなった。

たまには俺から会いに行こうと思ったけれど、
俺は、はなちゃんがどこに寝泊まりしていて、
どこで食事をしてるとか、まるっきり知らなかった。

気になった公園に足を運んでみても、
居なかった。

公園なんて久しぶり過ぎて、自分はブランコに乗って泣いた。

会社帰りの夜の公園で、独り号泣した。

ランニングしてたおじさんが気に掛けてくれて、
ティッシュをくれたりした。

俺の嫁は、不妊症だった。

でも、奇跡的に子どもが出来た。

俺も嫁も互いの家族もどんちゃん騒ぎで、
もう、毎日が楽しみで幸せだった。

医者も、順調だって言っていた。

でも、赤ちゃんの大きさが、
途中で大きくならなくなった。嫁の具合も悪くなって、
嫁は出産予定日間近にして死んだ。

でも、赤ちゃんは生きてた。

未熟児と言われる重さで、
専用の機械に入れられて、でも、俺は安心した。

嫁の変わりに、この子を立派に育てようと、思い巡らせていた。

次の日、息子は死んでいた。

公園で遊んでやろうとか
ラーメン一緒に食べに行こうとか
家に残ってる赤ちゃん用品とか
アカチャンホンポの看板とか

思い出しては泣いて

その日は恥ずかしい事に、
大家に泣きながら酒飲んでお世話になってしまった。

「だから言ったでしょ」

大家は俺にそう言った。

何を、とかは、言われなくてもわかった。情けなかった。

もう、ちょっとウルウルしてる。

泣くのは卑怯だなとは思うけど。

それから何週間かすぎたころ、
はなちゃんは現れた。

はなちゃんの姿を見て、俺は、はなちゃんの前で泣いてしまった。

はなちゃんは笑顔だった。

目の赤みは引いていた。

でも、俺が見たはなちゃんの右目は、
真っ白になってた。

濁ってるどころか、黒目の色が変わっていて、
濁った薄青白のような色になっていた

見えてないと、一目でわかった。

はなちゃんはそんな俺に抱き付きながら、
ポケットから指輪を取り出して、俺の薬指に嵌めようとした。

俺の指が太くて真ん中までしか入らなくて、
それでも満足したようだった。

「はなちゃんは一のお嫁さんになるからね。んふふぅ~」

指輪は多分、拾ったやつなんだと思う。

キラキラした偽物の宝石は所々無くなってるし、
指をはめるリングの部分は広がって隙間が出来ていた

泣いてて返事もろくに出来ない状態の俺を置いて、
はなちゃんは走って、離れたとこにいたおじさんと手を繋いだ。

お父さんだろうか、三好さんだろうか。

わからないけれど、
彼は作業員のようなグレーの服を着ていた。

「ばいばーい」

はなちゃんは手を振って、
おじさんとどこかへ消えた。

それ以来、はなちゃんは来ない。

多分、もう会えないのかも知れない。

これが僕とホームレスのはなちゃんの思い出です。
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